お金の貸し借りの契約(金銭貸借契約)をする場合に、準備が必要な物は下記の2点です。
(1)契約書(借用書)の用紙
(2)印鑑
実は金銭貸借については書面を用意することは義務化されておらず、口約束だけでも契約は成立します。
ただ、口約束では形として残らないため、金銭貸借の証拠が無く事実証明が困難になってしまいます。
約束通りに返済がされれば口約束でも問題はありませんが、返済が滞った場合に厄介なことになってしまうのです。
そのような返済遅延が起きた場合には、最終的には裁判所での強制的手続を活用することになりますが、その際に金銭貸借の事実証明が必要になり、契約書(借用書)の存在が大きな意味を持ちます。
(契約書が無くて金銭貸借の事実証明が出来ない場合には、裁判手続が行えないリスクもあります。)
また、金銭貸借に保証人を設ける場合については、契約を書面にすることが義務とされており(民法446条2項)、これは口約束だけでは保証人の契約部分は無効となってしまいます。
つまり、契約書を作成していなければ、特にお金を貸した側(債権者)が不利になってしまうことが多いのです。
お金を貸したのに、それを返してもらうのに証拠不足で手続が進まないという事態は、相当に腹立たしいものです。
契約書の役割というのは、金銭貸借の事実証明が第一ですが、万が一にも裁判をする事態になった場合に、裁判所にも通用する証拠になるということなのです。
すると、せっかく契約書を作成しても、その内容があまりにも的外れになっていた場合は、裁判所で証拠として採用されない可能性もあります。
契約書に書かれた文言が、返済義務のある金銭貸借ではなく贈与の内容になっていたり、返済期日が明確になっていない場合など、そのような不備があれば思わぬ不利益を被るリスクがあります。
契約書はあれば良いというものではなく、そこに書かれた文言が適切かどうかが重要になるのです。
印鑑の有無を気にされる方は多いですが、印鑑以上に契約書の記載内容が重要だということを意識するべきです。
万全を期すために準備しておきたいこと
契約書については、契約書の用紙に署名と捺印をすれば、外形的には一応の証拠能力が発揮されます。(書面の文言の不備が無いことを前提とします。)
しかし、それだけでは裁判とその後の強制執行(差押)を考えると準備不足と言えます。
やはり、印鑑については債権者と債務者の両方が実印を使用し、実印であることの証明として印鑑登録証明書を添付するのが最善です。
また、最終的な差押手続まで考慮すると、差押が可能な債務者の財産まで把握しておく必要があります。
特に財産が無い債務者の場合には、給与や年金などが振込される口座を差押するしか無いケースが目立ちます。
裁判所は債務者の銀行口座情報などは調査してくれるものではなく、そうした情報は全て債権者自身が調べないといけません。
差押(強制執行)の段階で債務者に尋ねても、それは素直に教えてくれるはずはないのです。
そのため、契約書を作成する段階で、債務者の勤務先と給与振込に使う銀行および支店は確認しておくことが前提になります。
(その他には、債務者が生命保険などを契約している場合は、その解約返戻金を差押できる可能性があるので、その保険の情報も把握できると良いでしょう。)
また、裁判は郵便物が配達される住所を持つ相手方でないと手続ができません。
相手方の住所が不定の場合は、裁判所を通じた手続を行うのは困難になってしまいます。
住所が定まらない相手には、お金を貸すべきではないという話になってしまいます。
不動産や貴金属など、換金性の高い担保物がある場合は、それを他の債権者に先取りされないように、契約書の担保指定の文言を完全にしておかなくてはなりません。
(契約書が完璧であっても、他の債務者に法律上の先取特権がある場合には、差押の順序で競合負けになることもあります。)
お金を貸すという行為は、本来リスクが高いものです。
それを貸すという決断をするには、返済遅延があった場合の回収対策を講じることが必要です。
その回収対策が困難に思える相手方については、大切なお金を貸すべきではありません。
場合によっては借金の依頼を断る勇気も必要ということです。