民法改正と借用書(金銭消費貸借契約)のポイント
民法(債権法)の改正(2020年4月1日施行)は、金銭の貸し借りを行う際の借用書(金銭消費貸借契約書)の作成についても影響があり、従来とは異なるポイントを押さえておく必要があります。
この民法改正では、従来まで法律関係者の間では暗黙の了解となっていた事項を明文化した部分と新たな改定部分があって、従来通りの運用でよい場面と新たな対応が必要な場面が生じます。
そこで民法改正の中で一般的な金銭消費貸借契約について絞った要点を解説します。
なお、金銭消費貸借に関する契約書のことを本ページでは「金銭消費貸借契約書」もしくは「借用書」と表記しますが、どちらも同じ契約書のことを指すものとします。
<本ページの目次>
・金銭消費貸借契約とは
・金銭消費貸借契約の定義と成立要件【書面による諾成契約と電子ファイル】
(改正民法第587条・第587条の2)
・法定利息の改定(改正民法第404条・第589条)
・返済時期(改正民法第591条)
・借用書の記載事項の概要
お金の貸し借りという金銭消費貸借契約は誰にも身近な契約ですから、民法改正による変更点についてよく理解をしておきたいところです。
金銭消費貸借契約とは
返済することを約束してお金(金銭)を借りることを金銭消費貸借契約といいます。
民法では第587条と第587条の2において消費貸借(契約)という項目で細かな規定がされています。
その契約内容を書面に記載したものが借用書になるのですが、民法改正では借用書の書面の位置づけについて明文化されることになりました。
お金の貸し借りについては、借用書などの書面を用意しなくても契約内容は有効となるのですが、実際には証明書類としての借用書が無いと裁判所などでの手続が難しくなるため、大きな金額の貸借をする場合には書面を作成するのは常識となっています。
つまり、お金の貸し借りは書面が無くても、口約束のみであっても法的に有効ですが、回収の問題が生じたときに書面が無いと不都合が生じることになります。
こうした実態に鑑み、改正民法では金銭消費貸借契約についての口約束と書面の場合の扱いが明文化されることになりました。
金銭消費貸借契約の定義と成立要件【書面による諾成契約と電子ファイル】
(改正民法第587条・第587条の2)
改正民法の第587条・第587条の2では、消費貸借について以下の条文で規定がされています。
第587条(消費貸借)
消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
第587条の2(書面でする消費貸借等)
前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
2 書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。
3 書面でする消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。
4 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
第587条の消費貸借の定義としては「種類、品質及び数量の同じ物」(多くの場合は金銭)について、「返還をすることを約して」受け取ることで効力が発生するという規定をしており、これは改正前と同様です。
金銭の貸し借りという事実があれば、それは書面がなくても契約として有効という扱いは改正後も維持されています。
このような「金銭の貸し借りの事実」を契約の成立要件とされるものを「要物契約」といいます。
ただし、改正民法第587条の2では、(金銭の)返還をすることを「書面」で約することによって、その効力を生ずるという規定が追加されており、これは「金銭の貸し借りという事実」がまだ実行されていない状態でも、「書面」で貸し買りを約した場合には契約として有効となる扱いを認めました。
このような契約の成立要件に金銭の引き渡しをともなわず、(書面での)約束だけでも契約の効力が発生するものは「諾成契約」といいます。
民法改正によって、金銭消費貸借契約の成立要件として、口約束だけの場合には金銭引き渡しの事実が必要な要物契約とされ、書面(借用書)を作成する場合には金銭の引き渡しは事後でもよいとする諾成契約という扱いになります。
改正前には、借用書を作成する以前に貸付の実行をすることが要件とされていましたが、改正後は先に借用書を作成して事後に貸付を実行することが認められることになります。
ただし、借主は借用書を作成しても、貸付が実行される以前の段階なら契約を解除することができるので、貸付が引き延ばされて実行されないという不利益があれば契約解除をして返済をしないという選択ができます。
借用書については「電磁的記録」でも認める規定が追加されたため、紙媒体の契約書ではなくても電子ファイルでの記録でも契約内容は有効となります。
ただ、電子ファイルの場合は改ざん防止や当事者性の証明という問題もあり、電子証明書発行などの公的証明をする場合には手続が煩雑になるので、紙媒体による署名と捺印という従来とおりの形式の方が扱いは容易というメリットはあります。
法定利息の改定(改正民法第404条・第589条)
改正前の民法では、利息の特約が無い場合の法定利息は年利5%とされ、商取引の法定利息は商法により年利6%とされていました。
民法の改正により、2020年4月1日以降の法定利息は民事・商事ともに年利3%に改定となります。(改正民法第404条)
なお、この法定利息は3年ごとに見直されるようになり、1%単位で変動の可能性があります。
また、改正民法第589条では、貸主は利息に関する特約が無い場合は借主に対する利息を請求できないということが明文化され、借用書を作成する際には利息を設けるのか否か、設ける場合には年利何パーセントとするのかを明確に記載することが求められます。
法定利息を超える利息を特約で設定する場合には、利息制限法の上限を遵守する必要があり、2010年6月施行の改正利息制限法では上限を以下のとおり定めています。
【利息の上限】
貸金額 上限金利(年利)
10万円未満 20%
100万円未満 18%
100万円以上 15%
返済遅延が生じた場合の遅延損害金については、利息制限法の上限は以下のとおりです。
【遅延損害金の上限】
貸金額 上限金利(年利)
10万円未満 29.2%
100万円未満 26.28%
100万円以上 21.9%
※貸金業など営業的な金銭貸借の遅延損害金の上限は年利20%
民法改正によって法定利息の改定がされたため、利息をどの程度に設定するのかを貸主と借主で協議し、借用書に明確に記載するようにしましょう。
返済時期(改正民法第591条)
借用書を作成する場合は、通常は返済計画を明確に記載するので、その記載した条件のとおりに返済が行われることが前提となります。
そうした返済計画を明確には定めなかった場合には、貸主は相当の期間を定めて返還の催告をすることになっています。(民法第591条)
この相当の期間とは、一般的には1~2週間程度と解釈されています。
改正民法では、借主はいつでも返還ができることが明文化され、借主は自身の都合によって前倒しで返済を行ってもよいことが明確にされました。
ただし、借主が前倒しで返済を行ったことで貸主に損害を与えた場合は、貸主はその損害分を請求できることも明文化されました。具体的には、長期間の返済計画により貸主が利息収入を意図していた場合に、早期に完済したことにより収入不足になったようなケースで、貸主が事務手数料に相当する金額を請求するような状況が想定されます。
借用書の記載事項の概要
本ページに挙げた改正民法の要点を踏まえると、借用書を作成する場合の概要は以下のようになります。
(1) 表題
単純な金銭の貸し借りの場合は「金銭消費貸借契約書」。売掛金や損害賠償金を回収するための契約書を作成する場合は「債務承認弁済契約書」という表題にします。
単に「借用書」という表題にしてもよく、表題の選択よりも契約書の内容が重要となります。
(2)債権債務の確認
金銭の貸し借りのあった日付やその金額などを記載します。売掛金や損害賠償金など、契約をする原因がある場合は、その理由を特定して記載します。
民法改正によって書面を用いた金銭貸借契約は諾成契約となるため、契約書を作成した事後に金銭貸付を実行することも可能となります。
(3)連帯保証人や担保の設定
連帯保証人や担保を設定する場合は、その内容を記載します。
連帯保証人は予定者の同意が必要であり、予定者本人の署名・捺印の同意がなければ連帯保証契約の効力は生じません。
担保は不動産への抵当権や貴金属の質権、自動車への譲渡担保設定などの方法があります。
担保設定するのが不動産の場合は、別途で法務局にて抵当権設定等の手続が必要になります。契約書の作成だけでも担保設定契約は有効ですが、不動産登記がなければ第三者に対して権利主張ができなくなります。
(4)弁済期限
金銭の返済(弁済)方法や条件を記載します。分割返済か一括返済か。分割返済であれば、月々の返済条件などを明確にします。
「支払える時に支払う」「毎月できるだけ支払う」というようなあいまいな条件ではトラブルになることが多く、「毎月末日までに5万円を返済して24ケ月で完済する」という具体的な条件設定が必要です。
(5)利息・損害遅延金
利息や返済が遅延した場合の損害賠償金を取り決めしておきます。
改正民法第589条では、貸主は利息に関する特約が無い場合は借主に対する利息を請求できないとされているため、利息に関する条件も契約書に明確に記載しておく必要があります。
利息制限法で定められた上限を超えた利率を設定して、それを受領すると罰則対象となるので注意が必要です。
(6)期限の利益
期限までに返済をしない場合や、借主が不渡りを出した場合など、最終返済期限日を待たずに一括返済する義務が生じる条件を設定することができます。
(7)その他諸条件
契約内容を秘密にしたい場合や、相手方とは面会したくない場合など、特約を設定することも可能です。
(8)日付
契約日を記載しておきます。消滅時効の問題があるので、年月だけでなく日付まで明確に記載する必要があります。
(9)当事者の表示、署名、押印
当事者の氏名を自署し、それぞれ実印を捺印します。実印であることを証明するため、各自の印鑑登録証明書を添付して、契約書の形式的効力を高めます。
契約の金額が大きい場合は、公証役場にて公正証書にしておくことを強くお勧めします。
以上の要点を押さえて、諸条件に漏れのない契約書を作成するようにしましょう。
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