新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって収入が激減し、公的助成金だけでは足りずに、知人から事業資金や生活資金の借入をする際には、貸主に安心してもらうために契約書(借用書)を用意する必要があります。貸付をする立場では回収を想定した契約書の作成が不可欠です。
また、こうした金銭の貸し借りをする際には、民法の債権法改正(2020年4月1日施行)の内容を押さえた上で契約書を作成しなくてはなりません。
緊急時だからといっても、口約束だけでお金を貸したり借りるというわけにはいかないので、本ページの情報を反映して法的に通用する契約書を用意しましょう。
ビジネスを継続させたり急な収入減に対応するためには、公的助成を活用するのが最初にやるべきことですが、その対象には含まれない場合や助成額では足りない場合には、個人的なつながりに頼らざるを得ない場面もあります。
ただし、親戚や友人といった知人との金銭貸借では、信頼関係を崩すようなことがあってはなりません。
そのためには何に使う費用としてどれだけの金額が必要なのか、それをどのような条件で返済するのかを明確にしておく必要があります。
そうした条件を文書化して、返済遅延が生じた場合の法的手続の証拠資料にするのが契約書の役割です。
そんな返済遅延という問題が起きないように、返済に関する意識を高めるという効果も期待できます。
その契約書の名称(表題)としては、「金銭消費貸借契約書」を用いることが多いのですが、単に「借用書」とする場合もあります。
また、過去に貸した金銭について返済条件を改めて定める場合には「債務承認弁済契約書」とすることもあります。
こうした契約書の表題については、どの名称を用いても構いません。(契約書の表題の選択がふさわしくなくても、それで契約内容が無効になることはありません)。
民法改正を踏まえて、金銭貸借の契約書を作成する場合には、以下の事項を反映して文書化をします。
(1)債権債務の事実関係を確認
貸付・借入をする日付やその金額などを記載します。事業運転資金や生活資金など、金銭貸借の理由と用途をわかりやすく記載します。
民法改正(第587条の2)によって書面を作成する金銭貸借契約は諾成契約となるため、契約書を作成した後からでも金銭貸付を実行することも可能となります。
(先に契約書を作成し、後日に貸付金を振込という形でも可となりました)。
(2)連帯保証人や担保の設定
連帯保証人や不動産や動産の担保を設定する場合は、その内容を明確に記載します。
連帯保証人は予定者の同意が必要であり、予定者本人の署名・捺印による同意がなければ連帯保証契約の効力は生じません。
担保は不動産への抵当権や貴金属の質権、自動車への譲渡担保設定などの方法があります。
担保の対象、設定する権利の内容、権利移転の条件を明確に記載する必要があります。
担保設定するのが不動産の場合は、別途で法務局にて抵当権設定等の手続が必要になります。契約書の作成だけでも担保設定契約は有効ですが、不動産登記がなければ第三者に対して権利主張ができなくなります。
(3)弁済期限の指定
金銭の返済(弁済)方法や条件を記載します。分割返済か一括返済か。分割返済であれば、月々の返済条件などを明確にします。
「支払える時に支払う」「毎月できるだけ支払う」というようなあいまいな条件ではトラブルになることが多く、「毎月20日までに10万円を返済して12ケ月で完済する」というような具体的な条件設定が必要です。
(4)利息・損害遅延金
利息や返済が遅延した場合の損害賠償金を取り決めしておきます。
民法第589条では、貸主は利息に関する特約が無い場合は借主に対する利息を請求できないとされているため、利息に関する条件も契約書に明確に記載しておく必要があります。
利息制限法で定められた上限を超えた利率を設定して、それを受領すると罰則対象となるので注意が必要です。
なお、法定利息は2020年4月より民事・商事ともに年利3%となりました。(民法第404条)。この法定利息は3年ごとに見直されるようになり、1%単位で変動の可能性があります。
契約書を作成する際には利息を設けるのか否か、設ける場合には年利何パーセントとするのかを明確に記載することが求められます。
法定利息を超える利息を特約で設定する場合には、利息制限法の上限を遵守する必要があり、2010年6月施行の改正利息制限法では上限を以下のとおり定めています。
【利息の上限】
貸金額 上限金利(年利)
10万円未満 20%
100万円未満 18%
100万円以上 15%
返済遅延が生じた場合の遅延損害金については、利息制限法の上限は以下のとおりです。
【遅延損害金の上限】
貸金額 上限金利(年利)
10万円未満 29.2%
100万円未満 26.28%
100万円以上 21.9%
※貸金業など営業的な金銭貸借の遅延損害金の上限は年利20%
(5)期限の利益の取り扱い
分割金の支払いをしない場合や、借主が不渡りを出した場合など、最終返済期限日を待たずに一括返済する義務が生じる条件を設定することができます。
(6)その他諸条件
契約内容を秘密にしたい場合や、借入金の使途を限定したい場合など、特約を設定することも可能です。
(7)日付
契約日を記載しておきます。消滅時効の問題があるので、年月だけでなく日付まで明確に記載する必要があります。
(8)当事者の表示、署名、押印
当事者の氏名を自署し、それぞれ実印を捺印します。実印であることを証明するため、各自の印鑑登録証明書を添付して、契約書の形式的効力を高めます。
契約の金額が大きい場合は、公証役場にて公正証書を作成するのが適切です。
以上の内容を貸主と借主の間でよく話し合い、それにより決めた条件を契約書に反映させることが必要です。
急ぎで契約書を作成する必要がある場合は、大事な内容に見落としが無いように専門家に作成を依頼するのが安心できると思います。
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